冷酷御曹司の激情が溢れ、愛の証を宿す~エリート旦那様との甘くとろける政略結婚~
震える声で坪井くんが頭を下げる。その姿が、昨日のロビーで充さんに向かって土下座をしていた元社員の男性と重なって見えた。
今の充さんはあのときと同じように相手を射殺しそうなほどの殺気を込めた鋭い視線と、相手を一瞬にして凍り付かせるような冷たい声を坪井くんに向けている。
そんな充さんを目の前にして、坪井くんはすっかり縮み込んでいた。
「――帰るぞ」
充さんの手が私の手首を掴んで引っ張り、無理やりイスから立ち上がらせる。スーツのジャケットの内ポケットから財布のようなものを取り出すと、そこから抜き取った一万円札をテーブルに置いた。
食事代だろうか。受け取れないと思った坪井くんがあたふたしている間に、充さんは私の手を掴んだまま引っ張るように店の出口に向かって進んでいく。
振り返ると、顔面蒼白の坪井くんがそこにいた。
充さんに連れていかれてクレシャリーテに戻ると、地下にある駐車場に停められている彼の車の助手席に押し込まれた。
運転席に座った充さんが車を出発させる。
ここまでひと言も言葉を交わさずにきたけれど沈黙も辛くなってきた。隣に座る充さんの様子を窺いながら、私は恐る恐る口を開く。