冷酷御曹司の激情が溢れ、愛の証を宿す~エリート旦那様との甘くとろける政略結婚~
悠はジャケットから取り出したスマホをいじりながら口を開く。
「昨日の兄貴の様子がおかしかったから心配でさ。ずっとイライラしてたでしょ」
「そんなことはない」
「今もちょっと機嫌悪い?」
俺を見ながら悠がにこりと微笑む。
俺たち兄弟は顔の作りは似ているのだが、表情には雲泥の差がある。いつもニコニコと笑って愛想を振る舞くのが得意な悠に比べて、俺は自分でも認めるほど笑顔が少なく愛想のない性格をしている。
「兄貴の大好きな菫ちゃんとなにかあった? 昨日は彼女も元気なさそうだったけど」
悠の言葉に思わず眉根が寄った。
「人の妻を気安くちゃん付けで呼ぶな」
「じゃあ菫」
「呼び捨てもやめろ。俺を怒らせたいのか」
睨むように見つめれば「こっわ」と呟いた悠がケラケラと笑っている。けれどすぐに笑みを引っ込めて俺の様子を窺うように尋ねてくる。
「ケンカでもした?」
「ケンカするほど親しくもない」
そんな事実を言って悲しくなった。思わず目を伏せてしまった俺を見逃さなかった悠が、ちょっと困ったように笑う。
「どうして好きだって言わないの?」
「別に好きじゃない」
「そうやって素直にならないから、菫ちゃんに心を開いてもらえないんだろ。愛想だってもっとよくしないと」
やれやれといった様子で悠がため息をこぼした。