冷酷御曹司の激情が溢れ、愛の証を宿す~エリート旦那様との甘くとろける政略結婚~
「母さんが俺に持ってきた縁談を横取りするくらい好きなんだから、菫ちゃんのこと大切にしないといけないよ、兄貴」
「悠。お前は少しその口を閉じろ」
微かな怒りを含ませて告げれば、それに動じることなく悠はおどけたように手で口にチャックをする真似をした。
こいつのこういうあっけらかんとした性格をたまに羨ましく思う。
俺はどうも不器用だ。自分でわかっている。頑固というか真面目というか。悠のように軽口をたたくこともできなければ、微笑むこともできない。
そのせいで初対面の相手には怖がられ、母が持ってきた縁談の見合いの席では相手女性を幾度となく怯えさせ、そのたびに結婚話が破断になっている。
それならもういっそ見合いの席には行かないし縁談も受けない。そう決めて母がしつこく持ってくる縁談話をここ一年はずっと断り続けてきた。だから母も俺の結婚はもう諦めていたのだと思う。
『とっても素敵なお嬢さんを見つけたの』
ある日、そう言って母が持ってきた縁談は俺にではなく弟の悠にだった――。
「そういえば兄貴、三沢旅館の再建は順調? 今は臨時休館してるんだよね」
いつの間にか口のチャックを開けた悠が思い出したように尋ねてきた。