能ある彼女は敏腕社長に捕獲される
有能な私が無能のフリをする理由
* * *

私の家族は証券会社に勤務している父と専業主婦の母、5歳上の兄の4人家族だった。

父を一言で言うとするならば“仕事人間”で、もし“24時間戦えますか?”と言う質問がきたらすぐに“イエス”と返事をするような人間だろう。

正直なことを言うと、私にも兄にも父と過ごした記憶もなければ思い出もない。

父は朝早くから仕事に行って夜遅くに家に帰ってくると言う、そんな人間だった。

休みの日に父が家にいるなんて言うこともなかったし、父の顔を見る日があるのは年に2回か3回あればいい方だったと思う。

「お父さんはいつも忙しいのよ」

母は私と兄にそんなことを言っていたけれど、そう言っている母の顔はいつも寂しそうだった。

兄はそんな母のことを“父の被害者”と評すると、高校進学を理由に両親との関係に見切りをつけて家を出たのだった。
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