ヤンデレくんは監禁できない!
2.そして一週間後

やっぱり的中した

管理人から呼び出しを受けていた凌は、ぐったりとソファで仰向けに寝転がっていた。身じろぎ一つせず、右腕をアイマスク代わりにと乗せている。

芽衣里は黙ってミネラルウォーターのペットボトルをテーブルに置いた。右足首には相変わらず足枷がはまっている。それでも冷蔵庫や風呂まで行ける長さの鎖があり、そのおかげで──と言うのもおかしいが、とにかくこの部屋で芽衣里が不自由したことはない。

「水はここに置いておくからね」

「………うん」

「本当にお疲れ」

「………うん」

凌の生返事に芽衣里は気を悪くするでもなく、フローリングの床に座って、ただ心配そうに見つめた。何しろこの一週間、とにかく色々な事件に巻き込まれた。その度に対応に追われる凌を、芽衣里は間近で見ていたのだから心配にもなる。

極めつけは今日のストーカー襲来である。

部屋中が嵐でもやってきたかのように荒れ放題になっていた。
パソコンやテレビは壊されて修理に出しているし、食器類はほとんど割れるか欠けるかして捨ててしまった。ウォークインクローゼットならぬ資料室も、寝室さえもボロボロになって、布団もベッドテーブルも買い替えなくてはならないほどだった。

無事だったのは風呂とトイレくらいのものだが、慰めにもならないことは芽衣里もわかっていた。

(資料を捨てなきゃならなくなったのがキツいよね…)

凌と一緒になって片付けたのはもう三時間前のことだが、よく片付ける気力があったなぁ、と芽衣里は凌を少し見直した。凌のストーカーが逆上して部屋で暴れまくって、資料の半分以上が破棄になった。絶望して何もできなくなってしまってもおかしくはない。

(よく無事だったな…凌もあたしも)

芽衣里は凌に監禁されてからの一週間を思い返してみた。

月曜日は部屋の前に赤ちゃん置き去り
火曜日は隣りで幽霊騒ぎ
水曜日は騒音トラブル
木曜日は宗教勧誘
金曜日はネットトラブル
土曜日は何故か兄・廻が襲来

そして本日、日曜日はストーカー襲来

(ロシア民謡じゃないんだから)

現実逃避をしそうになる自分を叱咤し、芽衣里はこの一週間、対処にあたった凌のストレスを心配した。口には出さないが、かなり辛いはずだというのはわかる。おそらく、芽衣里が思っている以上に。

だから芽衣里は、勇気を振り絞り、言った。

「ねぇ、凌…もう終わりにしようよ」

「……」

「凌だってわかってたでしょ? あたしね、こういう体質というか……引き寄せるというか、昔からこうで……」

「……」

「これからはもっと気をつけるから……」

「……」

寝てしまったのだろうか、凌は何も返してはこない。
芽衣里は部屋の中を見渡した。ダイニングキッチン、パソコンラック、テレビボード…掃除をしたら、本当に殺風景な部屋になってしまった。あるべき場所に物がないというのは、芽衣里を落ち着かない気分にさせた。

この生活を終わらせれば、それで終わるだろうか。芽衣里は考えてみたが、答えがすぐ出るはずもない。
芽衣里は立ちあがって寝室へと向かった。今日はもう寝てしまおう、そう考えて、鎖を挟まないようドアを閉じた。

ドアが閉まる音がすると同時に、凌はそっと右腕をずらした。眠たげな半目ではない。ぱっちりと開かれている目だった。
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