ヤンデレくんは監禁できない!
3.はじめに戻る

ヤケではない、決して

車は高速を降りて、しばらくの間は国道を走った。辺りは山と緑だけ。静閑な空気が窓を開けなくても漂ってきて、ここはどこかの別荘地だろうと芽衣里はあたりをつけた。

(ここから山道か…)

一応は舗装されている道を、砂利を弾きながら進む。少し視界が暗くなったが、木漏れ日の美しさに芽衣里はすぐ気にならなくなった。
森林にはマイナスイオンがあり、それに包まれ癒される──よく知られた話ではあるが、この空間にいると本当に気持ちが落ち着いてくるような気がして、芽衣里は森林浴とやらをしたくてたまらなくなってきた。

(凌も少しは落ち着けば良いなぁ)

不平不満はあるものの、怒りはもうない。ただ凌が正気に返って、この旅行が終わったらアパートに帰らせてくれればそれで良いと芽衣里は思う。
凌の自宅マンションでの監禁は失敗した。だから、人里から離れたこの別荘で行うつもりだ。芽衣里はその考えを理解したが、成功するかどうかは正直な話、微妙だと思った。

(お隣りとは離れてるけど…誰もいないわけじゃないし、これから人も増えそうだし)

芽衣里が色々と考えているうちに、車はある山荘の前に止まった。ロッジともコテージとも言えそうな、丸太小屋タイプの別荘だ。

(童話に出てきそう、というか絵本でこんな感じの家見たことあるわ)

ワクワクしている芽衣里とは反対に、凌は落ち着いた様子で駐車スペースに車を入れる。車が止まるのとほぼ同時に、芽衣里は目を輝かせシートベルトを外した。

「あっ、おい!」

「凌、早く早く!」

芽衣里は滑るように車から降りた。凌はまさか逃げてしまうのではと思ったようだが、芽衣里はすぐにトランクの方へと駆けよった。

「早くって…」

笑顔で凌を呼ぶ芽衣里に、凌はため息を吐きつつも車から降りた。リモコンの遠隔操作でトランクを開けると、芽衣里は早速と言わんばかりにスーツケースを取りだした。

完全に旅行気分の芽衣里だが、凌からすればこれから彼女を監禁するのだ。どうにも調子が狂うのは仕方のないことだった。

「まぁ、逃げられるよりいいか…?」

「なんか言った? あ、鍵ちょうだい」

「……」

凌は遠い目をしてポケットから鍵を取りだした。芽衣里は受けとるとすぐにスーツケースを抱えて階段を駆けあがる。三段しかない階段は丸太で作られていて、少しデコボコしている。手作り感の強さに芽衣里はますますこの別荘が気に入った。

(せっかくだし、楽しもう)

そう決めた芽衣里は鍵を開けた。
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