秘書はあらがえない気持ちを抱いて 【おまけ①】
「分かった。それまでには戻る。」

佐月に見送られ、俺は西の扉から家を出ると西の庭に行った。

この家はやたらとでかく、東西南北にそれぞれ庭があるのだが、唯一西の庭には外に出られる小さな秘密の抜け穴があった。

そこは一部塀が崩れて出来た穴で、内側からも外側からも茂みで覆われて見えなくなっていて、人目を盗んで屋敷から抜け出すにはうってつけの場所だった。

俺はいつもそこから屋敷を抜け出し、近くの公園に行っていた。

日中だけ解放されるその公園には、いつか映画で見たリンカーン記念堂のリフレクティングプールのような大きい長方形の人口池があって、その先に記念塔はないがレンガ作りの3階建ての物見台があった。

俺はそれを物見台の対岸にあるベンチから見るのが好きだった。
それに、こうやって座っているととても落ち着く。

勿論、平均的な子供並みの遊びたいという欲求も持ち合わせてはいるのだが、育った環境ゆえかこういった感覚や嗜好が数十年早く成長してしまったように思う。

だが…

これからはそう簡単にここに来れなくなるだろう。

今日会いに来る俺と同い年の佐月の息子が、俺の従者になるらしい。

つまりは、四六時中行動を見張られるのだ。
これから毎日。

息が詰まりそうだ。


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