政略結婚は純愛のように〜完結編&番外編集〜
結局由梨は、夕食までの時間のほとんどをバルコニーで過ごすことになった。
夏のノルウェーは日が長く夕方になってることに気がつかなかったからだ。
雄大な自然の中、駆け回る狼はいくら見ていても飽きなかった。
夕食は、古民家風のレストランで取ることにした。
「ザリガニは夏しか食べられないみたいですから、季節が合ってよかったですね」
シーフードのシチューとザリガニのソテーをメインディッシュに飲み物を頼んで、料理が来るまでの間も、由梨はワクワクしてメニューを眺めていた。
文字は全く読めないが、観光客用に写真がついていて注文に困ることはないようになっている。
見ているだけで、わくわくした。
もっともこの旅で由梨が言葉に困ることは一切ない。隆之の通訳があったからだ。
彼は英語とフランス語を巧みに操り、由梨を完璧にエスコートしてくれた。
そういえば実家の今井家でも、男はいずれ商社の役員になるのだからと、高校で留学するのが決まりだった。
育った環境は違っても彼も同じような教育を受けてきたのだろう。
語学は少し苦手な由梨は、この旅では彼に頼りきりである。
それでも……、と由梨はメニューの向こうの隆之を見る。彼と自分を比べて引け目を感じるのはやめたのだ。
ないものを欲しがって、今ある幸せに気がつかないようなことはもうしない。苦手なことやできないことは誰にだってあるのだから。
とそこまで考えて、そういえば、と由梨は思う。
隆之には苦手なことはないのだろうか。
「どうかした?」
由梨の視線に気がついて、隆之が首を傾げる。一旦口を閉じて少し考えてから、由梨はまた口を開いた。
「隆之さんには……」
「ん?」
「隆之さんに、苦手なことってあるんですか? 弱点とか…」
「弱点? どうしてそんなこと聞くんだ?」
由梨は頬を染めた。
「隆之さんってなんでもできて完璧で…、これはできないってことあるのかなぁって思って。た、例えば泳げないとか、炭酸が飲めないとか…」
隆之が、吹き出した。
「俺の粗探しをしてるのか?」
「ち、違います!」
由梨は慌てて首を横に振る。そして、胸の内を説明した。
「隆之さんは、私の苦手なことは沢山知っていて…。それでも私のこと…その、す、好きでいてくれるでしょう? 同じように私も、隆之さんのことを知って…それで…」
最後までうまくは言えない由梨の頭に隆之の手が伸びて優しく撫でた。
「…ありがとう」
由梨の想いは隆之に正確に伝わったようだった。
ホッとして隆之を見つめると、彼は腕を組んで首を傾げた。
「…でも苦手なことか…なんだろう?」
うーんと考えこんでいる。
「炭酸は飲めるし…泳ぎもべつに…、あそうだ、泳げはするけど海水浴はあまり好きじゃない。…よく考えたら暑いのが苦手なのかもしれない」
今度は由梨が吹き出した。
そしてそのままくすくすと笑ってしまう。長坂が、"爽やかな海は殿に似合わない"と言っていたのを思い出したからだ。
「どうかした?」
問いかけられて由梨がわけを話すと、隆之は渋い顔をして舌打ちをした。
そして頭をかいて、
「俺、あいつが苦手だな」
と言った。
夏のノルウェーは日が長く夕方になってることに気がつかなかったからだ。
雄大な自然の中、駆け回る狼はいくら見ていても飽きなかった。
夕食は、古民家風のレストランで取ることにした。
「ザリガニは夏しか食べられないみたいですから、季節が合ってよかったですね」
シーフードのシチューとザリガニのソテーをメインディッシュに飲み物を頼んで、料理が来るまでの間も、由梨はワクワクしてメニューを眺めていた。
文字は全く読めないが、観光客用に写真がついていて注文に困ることはないようになっている。
見ているだけで、わくわくした。
もっともこの旅で由梨が言葉に困ることは一切ない。隆之の通訳があったからだ。
彼は英語とフランス語を巧みに操り、由梨を完璧にエスコートしてくれた。
そういえば実家の今井家でも、男はいずれ商社の役員になるのだからと、高校で留学するのが決まりだった。
育った環境は違っても彼も同じような教育を受けてきたのだろう。
語学は少し苦手な由梨は、この旅では彼に頼りきりである。
それでも……、と由梨はメニューの向こうの隆之を見る。彼と自分を比べて引け目を感じるのはやめたのだ。
ないものを欲しがって、今ある幸せに気がつかないようなことはもうしない。苦手なことやできないことは誰にだってあるのだから。
とそこまで考えて、そういえば、と由梨は思う。
隆之には苦手なことはないのだろうか。
「どうかした?」
由梨の視線に気がついて、隆之が首を傾げる。一旦口を閉じて少し考えてから、由梨はまた口を開いた。
「隆之さんには……」
「ん?」
「隆之さんに、苦手なことってあるんですか? 弱点とか…」
「弱点? どうしてそんなこと聞くんだ?」
由梨は頬を染めた。
「隆之さんってなんでもできて完璧で…、これはできないってことあるのかなぁって思って。た、例えば泳げないとか、炭酸が飲めないとか…」
隆之が、吹き出した。
「俺の粗探しをしてるのか?」
「ち、違います!」
由梨は慌てて首を横に振る。そして、胸の内を説明した。
「隆之さんは、私の苦手なことは沢山知っていて…。それでも私のこと…その、す、好きでいてくれるでしょう? 同じように私も、隆之さんのことを知って…それで…」
最後までうまくは言えない由梨の頭に隆之の手が伸びて優しく撫でた。
「…ありがとう」
由梨の想いは隆之に正確に伝わったようだった。
ホッとして隆之を見つめると、彼は腕を組んで首を傾げた。
「…でも苦手なことか…なんだろう?」
うーんと考えこんでいる。
「炭酸は飲めるし…泳ぎもべつに…、あそうだ、泳げはするけど海水浴はあまり好きじゃない。…よく考えたら暑いのが苦手なのかもしれない」
今度は由梨が吹き出した。
そしてそのままくすくすと笑ってしまう。長坂が、"爽やかな海は殿に似合わない"と言っていたのを思い出したからだ。
「どうかした?」
問いかけられて由梨がわけを話すと、隆之は渋い顔をして舌打ちをした。
そして頭をかいて、
「俺、あいつが苦手だな」
と言った。