政略結婚は純愛のように〜完結編&番外編集〜
その日の夜。
「おかえりなさい、隆之さん」
帰宅して玄関を開けた隆之を、リビングへと続く廊下をこちらへやってきて、由梨が出迎えてくれる。
車の音で隆之が帰宅したことに気がついたのだろう。
寒いからリビングで待っていてくれればいいのにと思いながらも、こうやって出迎えてもらえるのは嬉しかった。
彼女の顔を見て声を聞くと、家に帰ってきたのだと実感して温かい気持ちになる。
一日が終わったのだと肩の力が抜けるのだ。
「お風呂、沸かしてありますから入ってください」
「ああ、ありがとう」
いつものやりとりをしながら日本庭園を望む廊下を進みリビングへ向かう。
途中隆之だけバスルームへ寄り入念に手洗いとうがいをした。
そしてリビングへ行くと、待っていた由梨を思い切り抱きしめた。
「きゃっ!」
柔らかな髪に顔を埋めて、甘やかな彼女の香りを思い切り感じ取る。
心と身体が解けていくような心地がした。
「ふふふ、くすぐったい! 隆之さん、どうしたんですか?」
「なんでもないよ、ただこうしたくなっただけ」
耳にキスをしながら囁くと、彼女はまたくすくすと笑った。
「ふふふ、お腹はすいてないですか? 夜ご飯はいらないって言ってましたけど」
「うん、食べてきたから大丈夫。風呂に入るよ」
そう言うと腕の中で彼女は頷く。
「……そうですか」
でもなにかもの言いたげだった。
隆之が夕食を食べて帰る時は大抵接待や付き合いで、料理よりも酒ばかりということが多い。さらに昼食を重視しない傾向にある隆之の一日の食生活を彼女は心配しているのだ。
「大丈夫」
隆之は由梨の頬にキスをして、彼女を安心させるように説明をする。
「今夜の会食の相手方は体調の関係で禁酒されている方でね。料理をしっかり楽しんだよ。ちなみに、昼食も社内できちんと取ったから」
すると由梨は途端に嬉しそうな表情になる。
「そうなんですね、安心しました」
と言って、ホッと息を吐いている。
その姿に、例えからかわれたとしても、長坂の忠告を守ることにして正解だったと隆之は思う。
『もう君はひとりの身体じゃないんだから。大切にしないと』
由梨が妊娠してから、隆之が彼女に幾度となくかけた言葉だ。
現実に彼女のお腹の中には新しい命がある。
だが自分にも同じことが言えるのではないだろか。
隆之はもはや由梨と生まれくる子供と一心同体、自分になにかあったら彼らを悲しませることになる。
彼らを守りそばにいたいと願うなら、同じように自分の身体も大切にするべきなのだ。
隆之の腕に頬を預けた由梨が眠たそうに目を擦っている。
隆之はフッと笑みを漏らした。
「眠いのか?」
尋ねると由梨はこくんと頷いた。
「限界です……」
呟いて可愛らしいあくびをする。
無防備な姿が愛おしかった。
「風呂に入ったら俺も行くから、先に寝ていてくれ」
隆之は、頭を撫でながらそう告げた。
本当は酒を飲んでいない今夜は、寝る前に少し仕事をしようかと考えていた。今の隆之にはやることは際限なくある。
とはいえどうしても今夜やらなくてはいけないというわけではないのだから、疲れを感じている今やるより、しっかりと休んでからの方が効率がいいだろう。
そろそろ自分も、限界を決めずに突き進むだけのやり方を改める時がきたのかもしれない。
そんなことを考えながら由梨を見ると、彼女立ったままだというのにウトウトとしかけている。
「由梨、ほらベッドへ行かないと」
声をかけると、
「だって隆之さんの腕の中、気持ちいいんだもの……」
などとむちゃむにゃと言っている。
隆之はくすりと笑みを漏らして、柔らかな頬にキスをした。
「おかえりなさい、隆之さん」
帰宅して玄関を開けた隆之を、リビングへと続く廊下をこちらへやってきて、由梨が出迎えてくれる。
車の音で隆之が帰宅したことに気がついたのだろう。
寒いからリビングで待っていてくれればいいのにと思いながらも、こうやって出迎えてもらえるのは嬉しかった。
彼女の顔を見て声を聞くと、家に帰ってきたのだと実感して温かい気持ちになる。
一日が終わったのだと肩の力が抜けるのだ。
「お風呂、沸かしてありますから入ってください」
「ああ、ありがとう」
いつものやりとりをしながら日本庭園を望む廊下を進みリビングへ向かう。
途中隆之だけバスルームへ寄り入念に手洗いとうがいをした。
そしてリビングへ行くと、待っていた由梨を思い切り抱きしめた。
「きゃっ!」
柔らかな髪に顔を埋めて、甘やかな彼女の香りを思い切り感じ取る。
心と身体が解けていくような心地がした。
「ふふふ、くすぐったい! 隆之さん、どうしたんですか?」
「なんでもないよ、ただこうしたくなっただけ」
耳にキスをしながら囁くと、彼女はまたくすくすと笑った。
「ふふふ、お腹はすいてないですか? 夜ご飯はいらないって言ってましたけど」
「うん、食べてきたから大丈夫。風呂に入るよ」
そう言うと腕の中で彼女は頷く。
「……そうですか」
でもなにかもの言いたげだった。
隆之が夕食を食べて帰る時は大抵接待や付き合いで、料理よりも酒ばかりということが多い。さらに昼食を重視しない傾向にある隆之の一日の食生活を彼女は心配しているのだ。
「大丈夫」
隆之は由梨の頬にキスをして、彼女を安心させるように説明をする。
「今夜の会食の相手方は体調の関係で禁酒されている方でね。料理をしっかり楽しんだよ。ちなみに、昼食も社内できちんと取ったから」
すると由梨は途端に嬉しそうな表情になる。
「そうなんですね、安心しました」
と言って、ホッと息を吐いている。
その姿に、例えからかわれたとしても、長坂の忠告を守ることにして正解だったと隆之は思う。
『もう君はひとりの身体じゃないんだから。大切にしないと』
由梨が妊娠してから、隆之が彼女に幾度となくかけた言葉だ。
現実に彼女のお腹の中には新しい命がある。
だが自分にも同じことが言えるのではないだろか。
隆之はもはや由梨と生まれくる子供と一心同体、自分になにかあったら彼らを悲しませることになる。
彼らを守りそばにいたいと願うなら、同じように自分の身体も大切にするべきなのだ。
隆之の腕に頬を預けた由梨が眠たそうに目を擦っている。
隆之はフッと笑みを漏らした。
「眠いのか?」
尋ねると由梨はこくんと頷いた。
「限界です……」
呟いて可愛らしいあくびをする。
無防備な姿が愛おしかった。
「風呂に入ったら俺も行くから、先に寝ていてくれ」
隆之は、頭を撫でながらそう告げた。
本当は酒を飲んでいない今夜は、寝る前に少し仕事をしようかと考えていた。今の隆之にはやることは際限なくある。
とはいえどうしても今夜やらなくてはいけないというわけではないのだから、疲れを感じている今やるより、しっかりと休んでからの方が効率がいいだろう。
そろそろ自分も、限界を決めずに突き進むだけのやり方を改める時がきたのかもしれない。
そんなことを考えながら由梨を見ると、彼女立ったままだというのにウトウトとしかけている。
「由梨、ほらベッドへ行かないと」
声をかけると、
「だって隆之さんの腕の中、気持ちいいんだもの……」
などとむちゃむにゃと言っている。
隆之はくすりと笑みを漏らして、柔らかな頬にキスをした。