政略結婚は純愛のように〜完結編&番外編集〜
「もうっ! 信じられない……隆之さんったら……」

 由梨はぶつぶつ言いながら、リビングのローテーブルの上にそのままになっていたアルバムの山を整理している。
 秋元が片付けやすいように年代順にわけでいるのだ。
 向かい合わせのソファでは隆之が知らんぷりでコーヒーを飲みながら雑誌を読んでいた。

 一夜明けた、土曜日の朝である。

 結局由梨はあの後、隆之によって寝室へ連れて行かれてしまい、リビングへは戻ってこられなかった。
 せっかくの休前日の夜、ゆっくりアルバムを見ようと思っていた由梨の計画は実行できなかったのだ。

 しかも寝室へ行ってもなかなか寝かせてもらえなかったから、今朝は盛大に寝坊してしまうというおまけ付きだった。
 お昼前に起きてきてさっきようやく朝食を食べ終えたところだった。

「そのままになっちゃったじゃない。大事なアルバムなのに……」

 由梨のその文句に、隆之はあいかわらず素知らぬ顔でコーヒーを飲んでいる。

「アルバムはそのままでいいって言われたじゃないか」

 そんなことを言うものだからなんだか憎らしくなって、由梨は頬を膨らませた。

「大事なものだからそういうわけにいきません。それなのに隆之さんったらほったらかしにするんだもの」

 昨夜由梨が最後に持っていたアルバムなんて、ソファから床落ちていた。

「由梨が、俺を無視するからだ」

 反省する気配など一ミリもない様子の隆之に、由梨はぷりぷりして手を動かし続ける。

「だからって、だからって……あんなことまですることないのに」

 昨夜の隆之はいつもと少し違っていたような気がするのは由梨の気のせいではないはずだ。
 アルバムにかまけて本物の隆之を無視したことを、本気で怒っていたわけではないだろうが、でもそれを口実に……。

「あんなことってどんなことだ?」

 隆之からの問いかけに、ぶつぶつ言っていた由梨は手を止めて目をパチパチさせる。
 改めてそう尋ねられると、昨夜のことがなにやらリアルに頭に浮かんでしまう。
 チラリと見ると、隆之は雑誌を置いてソファに肘をついて、実に楽しそうに微笑んでいた。

 確信犯だと由梨は思う。
 言葉になどできるはずないのに、わざとそんなことを言う彼に、由梨が「もう……」と呟くと、隆之がくっくっと肩を揺らして笑った。
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