ダブルブルー
「…いやだなぁ、佐野さん。彼氏がいるなら言ってくれれば良かったのにー」


すみません、失礼しますー。


毒気を抜かれたみたいな顔で言いながら、店へと入って行く彼女たちの背中を見送った。



「…あの…」



なんて言えばいいのか、迷う。



言いかけた言葉は、夜の街に溶けてゆく。



「膝。血が出てるよ?」



言われて見下ろした自分の両膝は、盛大に擦りむいて血が滲んでいる。


せめても、と選んだ裾にぐるりとレースがついている白いスカート。


そのレースにも血が滲んでいる。



「…あ、いや…こんなの何ともないです」


「何ともなくはないでしょ」


思いのほかの強さで遮られた言葉に、戸惑う。


「何ともなく、ない」


重ねられた言葉は、優しさを纏っていて、ふいに泣きそうになって、焦る。



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