ダブルブルー
「これ、落としてたよ」


言いながら、手のひらに載せられたのは、私の会社の社員証。


「返そうとして追いかけたら、派手に転ぶは、えらいディスられてるわで、びっくりしたよ」


ふふふ。


また、柔らかな笑い声が私を包む。


「…なんだか、色々すみません…」


「普段からさ、あんな感じなの?」


顔を私の方に向けながら、彼が聞いた。


「……、」


帽子の影が顔に落ちているから、表情がわからない。


返す言葉が見つからなくて、形のいいくちびるが動くのをただ、見つめた。


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