傷だらけの黒猫総長
「うん、皇輝が好きな市松さん」
「……、……好き? 好きも嫌いも、俺には……」
皇輝は頷きかけてから、足を止めて呟く。
葉は数ヶ月前に戻ったような皇輝の姿を見て、少し間を置いてから優しく微笑んだ。
「……“分からない”? 今の皇輝なら、もう分かるはずだよ。逢見くんに嫉妬して、名前で呼ぶよう、お願いできたんでしょ?」
「……嫉妬?」
「あるいは焦りかな。逢見くんに市松さんが取られるかも……っていう。皇輝が自分から求められたなら、どんな理由でもいい」
「求めた……俺が……」
自分を振り返るように、皇輝は視線を落とす。
その脳裏に浮かぶのは、赤く頬を染めた少女の顔だった。