傷だらけの黒猫総長
「……苑香」
わたしを見た皇輝くんは、一度瞳を揺らしたものの、頬の湿布に気づくとキュッと唇を引き結んで視線を逸らす。
その、少し見えたいつもの皇輝くんの名残に、わたしはどこか安心して微笑んだ。
「大丈夫だよ、皇輝くんのせいなんかじゃないから。それにね、ちょっぴりいいこともあったんだ」
「……、いい、こと……?」
「うん。……やっぱり、“ちょっぴり”じゃなくて、“かなり”かな。あ、恥ずかしいから、皇輝くんには内緒だよ」
後になって、頬にキスされたことを思い出しては悶えてるなんて、本人にはとても言えない。
皇輝くんはいつもより薄い反応で、けれど最初からそうだったように、話しかければ応えてくれた。
それはきっと、神秘的な瞳の奥に何も無いのではなくて、何十もの壁の向こうに、心が隠れていることを教えてくれている。