傷だらけの黒猫総長
「わたしが止めるまで、やり返してくれたこと?」
「……っ」
皇輝くんはグイッと手を引き戻して、わたしの手から逃れる。
こうやって避けられたのは初めてだけど、皇輝くんの優しさが透けて見えたから、ショックは受けなかった。
「……そういうことか。皇輝、大事なやつがやられたら、我を忘れるのなんて普通のことだ。俺だってお前らが泣かされてたらキレる」
「覚えて、なくても……? 苑香の前だったのに、俺は……。あれが、“ありのままの心”だって言うなら、出てこなくていい……っ」
動揺から“心の声”が漏れ出したように、皇輝くんは揺らいだ瞳でそう言って、ぎゅっと目を瞑る。
「コウ……」
「皇輝……」
「……」
詠二お兄ちゃんはわたしの背中を押して、“任せる”と言うようにわたしの目を見た。