傷だらけの黒猫総長
交渉
「わたしはっ、皇輝くんと同じクラスの、市松苑香と申します。お父さんに比べれば短い期間ですが、皇輝くんとは……」
心、という言葉を使えば、もう聞き入れられなくなる。
務めて冷静に、感情論は抜き去って。
「よくお話をしています。わたしが見た皇輝くんは、頑張り屋さんで、優しくて、とても真面目な人です」
「認識が食い違うのは、クラスメイトである君ではなく、父親である私が間違っているからだと?」
お父さんは冷たい目でわたしを見つめた。
心のままに“そうだ”と言いたいのをグッと堪えて、深呼吸をする。
わたしは皇輝くん側からの視点しか知らない。
事情を聞かないまま、お父さん側の正当性を否定してはダメだ。
「……いいえ。先程はカッとなっていました。わたしが知っているのは今の皇輝くんだけですから……昔の事情は分かりません」