傷だらけの黒猫総長
そんなわたしの心の叫びは、当然のごとく皇輝くんには聞こえなかったようで、「じゃあ、掴まってて」とバイクが発進した。
好きな人のお家に遊びに行く時って、どうやって正気を保てばいいんだろう……!?
「――……俺、飛翔謳歌を辞めようと思ってる」
無情に走り続けるバイクが信号待ちで止まった時、皇輝くんはポツリとそう言った。
「え……? どうして?」
「父さんにも言われたし……苑香を、危ない目に遭わせたくないから」
「……! わたしの、為に?」
「うん。……やっぱり、少し違う。これは、俺の為」
それはきっと、今までの皇輝くんからは出てこなかった言葉。
思わずバイクのミラーを覗くと、皇輝くんは前を見ていた。