傷だらけの黒猫総長


……それじゃあ、詠二さんは今、22、3歳なのかな?




「佑香さんは俺にとって、恩人で……母親同然の人だ。1年にも満たない付き合いだけどな」


「……それほど、お母さんと過ごした時間は濃密だったんですね」


「あぁ。他にいい思い出がないと、いつまでも鮮明に残るもんでな」




はは、と軽く笑う詠二さんを見て、色々大変なことがあったのかな、と思う。


詠二さんにとっても、お母さんが“お母さん”なら……わたし達は兄妹のようなもの、なのかもしれない。




「……わたし、ずっとひとりっ子だと思ってましたけど……本当はお兄ちゃんがいたんですね」


「ん? 母親同然、ってのを真に受けたのか? ぽっと出の野郎に対して、警戒心がなさすぎるな」




詠二さんは横目にわたしを見ると、口元に笑みを浮かべながらそう言った。

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