傷だらけの黒猫総長
「“親”に似て人たらしだな。今のはいい殺し文句だったぜ? ――苑香」
「……! そうですか? 詠二お兄ちゃん」
ニッコリ笑って言い返すと、詠二お兄ちゃんはまた頭を撫でてくれた。
それからは、“詠二お兄ちゃんとお母さん”の思い出話を聞いたり、“わたしとお母さん”の思い出話をしたり、沢山お母さんのお話をした。
家に着くと、詠二お兄ちゃんは静かにお線香を上げて、片付いてきたお母さんのお部屋を少し悲しそうに眺める。
その背中を見て、わたしはあることを思いつき、遺品を取りに行った。
「詠二お兄ちゃん」
「ん? なんだ?」
「これ……よかったら、貰ってください」
持ってきた木箱を差し出すと、詠二お兄ちゃんは不思議そうな顔をして受け取る。