追放聖女はスパダリ執事に、とことん甘やかされてます!
 レイの言葉に、ヘレナはこっそりと胸を撫でおろす。
 もしもレイが本来の身分、ストラスベストの第二王子に戻ったら、平民であるヘレナと共に生きることは難しくなる。レイに『側に居て欲しい』という気持ちと、『本来の身分を取り戻してほしい』という想いが密かにせめぎ合っていたのだが、レイの気持ちは決まっているようだ。


「ですがレイモンド様、あの頃と今とでは状況が異なります。イーサン様はご病気で、下手をすれば王室の血が途絶えてしまう可能性もあるんですよ?」


 ニックは先程までと打って変わった真剣な表情で、そう口にする。


「兄上がご病気?」

「はい……あっ! これ、超極秘情報なんで、他言無用でお願いしますね。じゃないと僕の首が物理的に飛んでしまいますから!」


 ニックは人差し指を立て、しーーっと口にする。口では「すみません」と言っているが、顔は全然悪びれていない。ヘレナは呆然としながら、レイとニックを交互に見遣った。


「……それこそ、あなたがそんな風に口を滑らさなければ、私の存在はこれまで通り――――生死不明、行方不明のままです。それで血が途絶えるなら、それまで。元々そういう運命だったのでしょう。
分かったら私のことは諦めてください」


 レイはそう言ってニコリと笑った。ニックは泣き出しそうな表情をしつつ、レイの元へ詰め寄る。


「そんな冷たいこと仰らないでくださいよ~~! 大体レイモンド様の方がずっとずっと優秀な王子だったじゃありませんか? 戻ってきて――――」

「それより、どうして近衛騎士のあなたがこんな辺境に? 用事もなく来るような場所じゃ無いでしょう?」


 レイがサラリと話題を切り替えると、喋りたがりのニックは瞳を輝かせ、嬉しそうな笑みを浮かべた。

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