追放聖女はスパダリ執事に、とことん甘やかされてます!
「お疲れになられたでしょう? 少しだけお待ちください。今、お茶をご用意しますので」


 レイはそう言って穏やかに微笑む。ヘレナは首を横に振りつつ、自分の隣をポンポンと叩いた。


「……お茶より、レイがこっちに来てくれた方が嬉しいなぁ。今、すっごく甘やかされたい気分なんだけど」


 上目遣いでそう訴えると、レイはほんのりと目を丸くして嬉しそうに微笑む。それから彼は、ヘレナの隣にゆっくりと腰掛けた。


「ヘレナ様……一か月間、本当にお疲れ様でした」


 そう言ってレイは、ヘレナの頭を優しく撫でる。胸がドキドキと、甘く鳴り響いた。


「うん。レイもお疲れ様」


 言いながら、ヘレナは穏やかに目を細める。レイは「ありがとうございます」と言って、大きく息を吸った。


「――――――正直、あんな風に出迎えられるとは思っていませんでした。もう、十年も会っていませんでしたから」


 そう言ってレイは、複雑な表情を浮かべる。ヘレナはレイの手を握りつつ、ゆっくりと小さく頷いた。


「そうだよね。わたしももし、お兄様と十年間音信不通だったら、レイと同じことを思う気がする」


 言いながら、ヘレナは兄、マクレガー侯爵の顔を思い浮かべる。彼はヘレナの帰還を心から喜んでくれた。郵便受けには既に、兄からの手紙が数通溜まっていて、これから先も疎遠になりようがない。


(二ヶ月に一回は帰るって言ったんだけどなぁ)


 けれど、それが兄の愛情なのだろう。ヘレナはふふ、と小さく笑った。


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