追放聖女はスパダリ執事に、とことん甘やかされてます!
「ねぇ、良かったら家に来ない?」

「…………え?」


 私は自分の耳を疑った。ヘレナ様は屈託の無い笑みを浮かべつつ、私のことを見つめ続けている。


「来てよ! お父様やお兄様にも、お兄さんに会ってみてほしいし。
それに、お兄さんさえ良ければ、しばらくわたしの話し相手になって欲しいな。だって、侍女も執事も皆すっごく年上で、年の近い人がいないんだもの。ね、良いでしょう?」

「それは……願ってもいないことですが」


 私の言葉に、ヘレナ様は「決まりね!」と満足気に微笑む。


「あっ、ずっとお兄さんって呼ぶのも失礼よね。わたしはヘレナ。お兄さんは?」

「……! 申し遅れました。
私はレイモ――――」


 そう答え掛けて、私は口を噤んだ。既に私はストラスベストの王子ではない。二度と『レイモンド』の名前を名乗るわけにはいかないと気づいたからだ。


(どうしよう……なんとお伝えするべきか)

「――――レイ? あなたレイっていうの?」


 けれどヘレナ様は、そう言って瞳を輝かせた。花が綻ぶような、可憐な笑み。思わず涙が零れ落ちそうになる。


「はい――――私はレイでございます」


 答えながら、まるで自分が最初から『レイ』という名前だったかのような心地がしてくる。そのぐらい、しっくりと馴染んだ。


「よろしくね、レイ」


 そう言ってヘレナ様が優しく微笑む。その瞬間、私は『お嬢様のレイ』になった。
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