追放聖女はスパダリ執事に、とことん甘やかされてます!
「レイが付いて行くなら、何があってもヘレナは幸せでいれるだろう。そちらの方が俺も安心だ。お前が居なくなることは侯爵家にとっても大きな痛手だが、元々レイはヘレナの執事だしな。推薦状ぐらい幾らでも書いてやるよ。任せておけ。
なんて――――本当は、ヘレナはお前と結婚できたら一番幸せなんだろうけど」
侯爵の言葉に、今度は私は噴き出した。彼は気分を害した様子もなく、まじまじと私のことを見つめている。
「言っとくが、俺は割と本気で言っているんだぞ?
レイ――――お前本当は平民なんかじゃない。相当な身分の奴だろう? そんじょそこらの貴族じゃ受けられない教育を受けているし、初めて会った時から雰囲気とか身のこなしとか普通じゃなかった。事情があって今があるのは分かっているが……」
マクレガー侯爵はほんのりと眉間に皺を寄せ、小さくため息を吐く。私は肯定も否定もしないまま、穏やかに微笑んだ。
「お嬢様は王太子妃になられるのです」
言いながら、心はズキズキと激しく痛む。そんな私を見抜いてか、侯爵はまた、ずいと勢いよく身を乗り出した。
「好きな女性が他の男と結婚して、お前は平気なのか?」
「当然、平気なわけがありません」
本当に、平気なわけがなかった。
ヘレナ様がカルロス殿下に触れられる未来を想像すると、胸の中で黒い感情が蜷局を巻く。ヘレナ様の笑顔を、涙を、全てを独り占めしようとしているカルロス殿下が憎い。もしもヘレナ様に私の心の内を覗かれたら、嫌われてしまうかもしれない――――それほどまでに苛烈な感情が、私の中に内在していた。
「…………だったら、レイも結婚するか? 必要なら、俺が縁談を用意してやっても良い。叶わない恋に一生を捧げるなんて不毛だろう? 父上母上も、レイのことを息子のように可愛がっていたし、俺にとってもお前は大事な友人だ。ヘレナのことは護ってやって欲しいが、レイも自分自身の幸せを求めるべきだと思う。
……まぁ、お前なら何処へ行ってもモテモテだし、既にそういう相手が二人や三人居たところで驚かないけど」
「――――――縁談など必要ありませんし、そんな相手、居るわけがないでしょう。私の全てはお嬢様のものなのに」
言いながら、私は盛大なため息を吐いた。吐息が熱い。ヘレナ様の笑顔がチラついて、心がジリジリと痛む。
「本当に?」
呆れたような、揶揄するような表情を浮かべ、侯爵は尋ねる。
「もちろん。これまでも、これからも。私はお嬢様だけのものです」
ワインの苦みが喉を妬く。けれど、迷いなどこれっぽっちも無かった。侯爵はグラスに残ったワインを飲み干し「分かったよ」と言って微笑んだ。
なんて――――本当は、ヘレナはお前と結婚できたら一番幸せなんだろうけど」
侯爵の言葉に、今度は私は噴き出した。彼は気分を害した様子もなく、まじまじと私のことを見つめている。
「言っとくが、俺は割と本気で言っているんだぞ?
レイ――――お前本当は平民なんかじゃない。相当な身分の奴だろう? そんじょそこらの貴族じゃ受けられない教育を受けているし、初めて会った時から雰囲気とか身のこなしとか普通じゃなかった。事情があって今があるのは分かっているが……」
マクレガー侯爵はほんのりと眉間に皺を寄せ、小さくため息を吐く。私は肯定も否定もしないまま、穏やかに微笑んだ。
「お嬢様は王太子妃になられるのです」
言いながら、心はズキズキと激しく痛む。そんな私を見抜いてか、侯爵はまた、ずいと勢いよく身を乗り出した。
「好きな女性が他の男と結婚して、お前は平気なのか?」
「当然、平気なわけがありません」
本当に、平気なわけがなかった。
ヘレナ様がカルロス殿下に触れられる未来を想像すると、胸の中で黒い感情が蜷局を巻く。ヘレナ様の笑顔を、涙を、全てを独り占めしようとしているカルロス殿下が憎い。もしもヘレナ様に私の心の内を覗かれたら、嫌われてしまうかもしれない――――それほどまでに苛烈な感情が、私の中に内在していた。
「…………だったら、レイも結婚するか? 必要なら、俺が縁談を用意してやっても良い。叶わない恋に一生を捧げるなんて不毛だろう? 父上母上も、レイのことを息子のように可愛がっていたし、俺にとってもお前は大事な友人だ。ヘレナのことは護ってやって欲しいが、レイも自分自身の幸せを求めるべきだと思う。
……まぁ、お前なら何処へ行ってもモテモテだし、既にそういう相手が二人や三人居たところで驚かないけど」
「――――――縁談など必要ありませんし、そんな相手、居るわけがないでしょう。私の全てはお嬢様のものなのに」
言いながら、私は盛大なため息を吐いた。吐息が熱い。ヘレナ様の笑顔がチラついて、心がジリジリと痛む。
「本当に?」
呆れたような、揶揄するような表情を浮かべ、侯爵は尋ねる。
「もちろん。これまでも、これからも。私はお嬢様だけのものです」
ワインの苦みが喉を妬く。けれど、迷いなどこれっぽっちも無かった。侯爵はグラスに残ったワインを飲み干し「分かったよ」と言って微笑んだ。