追放聖女はスパダリ執事に、とことん甘やかされてます!
「レイ、レイ!」
それは、マクレガー侯爵から呼び出された次の日の夜のことだった。ヘレナ様が人目を憚るようにして、私の元を訪れる。潜められた声音が可愛らしく、私は思わず微笑んだ。
「お嬢様、一体如何しましたか?」
「一緒に来て? レイに渡したいものがあるの」
そう言ってヘレナ様は私の腕を引っ張った。薄い夜着に、湯上りの香りがふわりと漂う。爽やかで甘い良い香りだ。けれどそれは、ヘレナ様に恋焦がれる私にとって、一種の毒のような作用を持つ。
(本当は、こんな夜遅くに男の元を尋ねてはいけないとお諫めするべきなのだろうが)
こんなにも嬉しそうなヘレナ様の笑顔に勝てるわけがない。邪念を振り払いつつ、私はヘレナ様の後に続いた。
ヘレナ様と私は、屋敷の屋根の上に上り、二人並んで腰掛けた。幼い頃、私がよくお連れした場所だ。
月明かりがヘレナ様の笑顔をぼんやりと照らす。柔らかな微笑みは何よりも美しく、尊く、そして愛しい。触れたくて、抱き締めたくて、堪らなくなる。
(ヘレナ様はもうすぐ、カルロス殿下の妃になられるのに)
手が届かないと――――たとえ届いたとしても、触れてはいけないと分かっているのに、私の心と身体は、いつだってヘレナ様を求めていた。幸せで居てくれたら満足だなんて、口では幾らでも言えるが、本当はそれだけじゃちっとも足りない。
私はヘレナ様の特別になりたかった。私にとってヘレナ様が掛け替えのない大切な人であるように、ヘレナ様にとっての私も、同じであれば良いと思っていた。
それは、マクレガー侯爵から呼び出された次の日の夜のことだった。ヘレナ様が人目を憚るようにして、私の元を訪れる。潜められた声音が可愛らしく、私は思わず微笑んだ。
「お嬢様、一体如何しましたか?」
「一緒に来て? レイに渡したいものがあるの」
そう言ってヘレナ様は私の腕を引っ張った。薄い夜着に、湯上りの香りがふわりと漂う。爽やかで甘い良い香りだ。けれどそれは、ヘレナ様に恋焦がれる私にとって、一種の毒のような作用を持つ。
(本当は、こんな夜遅くに男の元を尋ねてはいけないとお諫めするべきなのだろうが)
こんなにも嬉しそうなヘレナ様の笑顔に勝てるわけがない。邪念を振り払いつつ、私はヘレナ様の後に続いた。
ヘレナ様と私は、屋敷の屋根の上に上り、二人並んで腰掛けた。幼い頃、私がよくお連れした場所だ。
月明かりがヘレナ様の笑顔をぼんやりと照らす。柔らかな微笑みは何よりも美しく、尊く、そして愛しい。触れたくて、抱き締めたくて、堪らなくなる。
(ヘレナ様はもうすぐ、カルロス殿下の妃になられるのに)
手が届かないと――――たとえ届いたとしても、触れてはいけないと分かっているのに、私の心と身体は、いつだってヘレナ様を求めていた。幸せで居てくれたら満足だなんて、口では幾らでも言えるが、本当はそれだけじゃちっとも足りない。
私はヘレナ様の特別になりたかった。私にとってヘレナ様が掛け替えのない大切な人であるように、ヘレナ様にとっての私も、同じであれば良いと思っていた。