追放聖女はスパダリ執事に、とことん甘やかされてます!
「それで? 一体どうしてここにいらっしゃったんですか?」


 出迎えの時と同じ言葉を口にして、レイモンド様は眉間に皺を寄せる。何だかんだ言いながら、テーブルには豪華なティーセットが用意されていた。有難くお茶を戴きつつ、僕は口の端を緩ませる。


「やだなぁ……理由がないと来ちゃいけないんですか?」

「当然です。あなたは一応ストラスベストの近衛騎士。王都まで往復一週間も掛かるのに、理由も無しにこんな所まで来て良い筈がありません。
さっさと用件をお話しください。もっとも、これ以上の面倒ごとはごめんですが」


 そう言ってレイモンド様は鋭い視線を僕に投げ掛ける。
 彼の言う面倒ごとというのは、レイモンド様が生きていらっしゃる事実を僕が陛下に告げ口したせいで、王都まで出向かなければいけなかったことを言っているんでしょう。元々隠したがっていましたしね!
 とはいえ、何だかんだ言いながら十年ぶりのご両親との再会にレイモンド様も喜んでいたというし、別に面倒ごとじゃないと思うんだけどなぁ。


「実は……ヘレナお嬢様にお礼とお願い事がございまして」

「わたし……ですか?」


 ヘレナ様はそう言って小さく首を傾げた。愛らしい可憐な仕草だ。うっかり見惚れていると、レイモンド様はそっとヘレナ様を抱き寄せた。


(あぁーー……人は変われば変わるもんだなぁ)


 幼少期のレイモンド様を知っている自分としては、むず痒さとは別の感慨深さがある。
 レイモンド様は女性嫌いで有名だった。しょっちゅう言い寄られてたし、何かを期待するような熱視線を送られてましたからね! 鬱陶しかったのでしょう。割と早い段階から侍女達を遠ざけ、同年代の御令嬢の猛アプローチをにべもなく退けてきたわけです。
 そんな彼が今や別人。子どもみたいな独占欲を発揮してるんですから――――お兄さんとしてはグッときちゃうわけ。


「で?」


 痺れを切らしたレイモンド様が笑顔でそう尋ねる。美人が怒るとすんごく怖いよね。ホント怖い。コホンと咳ばらいをしつつ、僕は居住まいを正した。


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