あの日の素直を追いかけて
第10話 手をつなげるようになった夜
俺が風呂を片づけ終えて部屋に戻ると、予想どおり2組の布団は並んでセットし直されていた。
「やっぱなぁ」
「修学旅行みたいでいいじゃない」
「佐藤、あとで誤解されないか?」
「誤解されそうなことするの?」
そこまで言われて、それ以上議論するのも意味がなく。俺たちはそれぞれの布団に入った。
「突然のことで、本当にごめんね」
常夜灯の小さな明かりの中、由実が口を開いた。
「いや、俺が役に立てるなら何でもするさ」
「本当はね、両親にもちゃんと波江君のお部屋だって言ってきたんだよ」
「男の部屋でなんも言われなかった?」
「ううん。うちの親も波江君のこと覚えてたよ。だから平気だった」
「そっか」
喜んでいいのか、少し複雑だ。そこまで信頼されているのか、それとも手を出すことはないと思われているのか。
「ううん、うちの親も波江君のとこならいいよって許してくれた。あの補習校でも他の男の子の部屋だったらOK出なかったと思う。私が最後まで毎年のクリスマスカードを書いていたのが波江君だって親も知ってるからね」
「え? あれって他の奴にもやっていたんじゃないのか?」
「まさか……。いくら人数が少なかったからって、全員に出していたわけじゃないよ。最後は波江君への1通だった」
「これ……だよな?」
ほかの手紙類は引っ越すときに処分されたものも多かったけれど、これだけはずっと残していた。
「懐かしい……。まだ持っていてくれたんだね」
由実もまさか10年の時を経てまた再び見ることができるなんて想像もしていなかったに違いない。
「波江君は、私と一緒じゃ安心できない?」
「いや……、その逆だ……。あの当時から佐藤がいてくれたから……、俺は頑張れたのかもしれない。お礼を言えてなかった。ありがとう。本当にこれは俺のお守りだった」
そうだ。帰国してすぐ、友人がだれも出来ない中で、彼女から連絡が俺の唯一の楽しみだったのだから。
「私でも、役に立てたんだね。よかった。ねぇ……」
「ん?」
「波江君にとって、私って友達でいいのかな」
「本当だったら、それ以上って言いたいところだけど。それは佐藤には失礼だって思ってた」
「本当? 忘れられてなくてよかった……。今回ね、また最初の友達からやり直さなきゃ駄目かもしれないって思ってたんだ」
布団の中から、由実の手が出てきた。
「手をつないでもいい?」
「あの補習校じゃ、出来なかったもんなぁ」
柔らかい手。しかし、冷たいくらいなのが少し気になった。
「温かいね。また明日。おやすみなさい」
考えてみれば、初めて見る由実の寝顔。
起きているときは以前のように人懐っこい笑顔を浮かべる彼女も、なぜかずいぶん疲れているように見えた。
本来なら、帰国したのであれば実家で骨休めすることが普通だろう。
それをいくら久しぶりに再会したクラスメイトとは言え、こうして家を出てくるのは、なにか理由があるように思えてならなかった。
どうしたら由実の力になってやれるのだろう。
横に眠る彼女を見ながら考えいるうちに、俺もいつしか眠りに落ちていた。