あの日の素直を追いかけて
第20話 数日間だけど、大きな収穫
その日は、朝から横浜まで車を走らせた。
もちろん助手席には由実を乗せてだ。
あの一晩を過ごした俺たちは、帰り途中のアウトレットモールに立ち寄り、ショッピングや食事をして過ごした。
雰囲気だけを見れば、仲の良いカップルのデートだ。
現実とは酷なもので、実際には明後日の夕方、由実は再び旅立ってしまう。
いや、現在の彼女の住まいはあちらなのだから、帰って行くということが本当は正しいのだろう。
俺たち二人の間では、この残り少ない時間をどう過ごせばいいか、釈然としない時間が流れた。
荷物を増やせない由実と相談して、細いチェーンのネックレスをプレゼントする事にした。
「祐樹君、こういうのはちゃんとした相手じゃないとプレゼントしちゃだめなんだよ? 女の子本気にしちゃうよ?」
もちろん冗談だと分かっている。二人で彼女の好きなデザインを選んだのだから。サプライズにしてもよかったけど、やはり一緒に一番気に入ったものをつけて欲しかった。
「由実だから、渡したかったんだ。よかったら、つけていってもらえないか?」
「うん、じゃぁ男除けのおまじないね」
「色気無いなぁ。初デートの記念とかにならないもん?」
こうして二人で笑ったのも数時間前の話。
一度部屋に帰り、彼女の荷物で忘れ物がないかを再び確かめて荷造りをした。
同時に自分の荷物も、もう1泊が出来る装備に入れ替えた。
今夜ここで一晩過ごし、明日の朝早くに出たあとは、翌日の夜までこの部屋には戻って来ない予定にしている。
そして、その時は一人での帰宅になることも分かっていた。
「なんか、出て行きっぱなしで何の片づけもしないなんて申し訳ないな」
この僅か数日間だったけれど、これまで俺の部屋には存在していなかった由実専用の品物も増えている。
わざわざ荷物を増やしてまで持って行くことはない。衛生上問題になる物を除いて、俺が洗濯やクリーニングを行って保管しておくことにした。
「片付けって言ったって、大した話じゃない。どうしてもって言うのは、歯ブラシぐらいじゃないか?」
先日、彼女の日用品を選んだときに、「今回は短期間だから」と、シャンプーや歯磨き粉などは旅行用の小さいサイズを選んでくれたから、今夜と明日の朝に使い切ってしまえば終わりだ。
パジャマなどは、きちんと洗濯をして、自分も雨の日にお世話になるコインランドリーで乾燥機にかけておけば大丈夫。
そのくらいは、もう一人暮らしの経験をしていれば難しいことじゃない。
「もう、生活力高すぎるんだから。それとも祐樹君が特別なのかな?」
「さぁなぁ。他の連中は知らないけれど、洗濯にしろ自炊にしろ、自分でやるのが一番の節約になったからな。アメリカ生活だってそうだろ?」
日本の現状の善し悪しはともかく、あちらの生活では手間が掛かっているほど、食料品も値段が上がる。そうなると自炊が一番安上がりだけど、仕事を終えてから毎食作るのは現実的ではない。
だから、休日にまとめて作っておいたり、冷凍食品などを併用するのが折衷案となる。
そんな現実をお互いに共有している俺たちだから、僅か数日の共同生活だったけれど不安や何より不満を覚えることもなかった。