あの日の素直を追いかけて
第41話 気持ちは10年前の15歳!
「祐樹君、おはよう」
「おはよう」
由実の顔が目の前にある。にっこり笑った顔を引き寄せてキスをしてやると、満足そうに着替えを渡してくれた。
オーランドに来て3日目の朝だ。
「ねぇ、着替えて朝のドーナツ食べに行こう?」
「了解!」
無料朝食サービスとしてドーナツとコーヒー・ジュースの軽食が用意されている。二人でフロントの前を通ると、元気に『おはよう』と挨拶をかけてくれ、こちらも同じように返してやる。
外国人旅行者だと分かっているだろうけど、こういった地元の旅行スタイルをとっている俺たちは、彼らにとっても取っつきやすいのだろう。
「もう大丈夫か?」
「うん、もうすっかりピンピンだよ」
ドーナツとオレンジジュースを取って食べながら、由実は本当に元気そうだ。
一昨日の夜の一件で、昨日の朝はまだ少し痛みも残っていたそうで、ディズニーワールド初日は抑えながらパークを歩いて散歩していた。
それでも夜のナイトショーまで手をつないで過ごした。
そもそも、リゾート地としては敷地面積として山手線がまるまる2つ入ってしまう大きさがあるのだから、2日間で全てを回るというのは無理がある。だから、俺たちが出会った当時からあるパークから2つを選んだ。
当時、俺たちが叶えることのできなかった「二人のデートがしたい」という由実の希望に異論はない。
2日目の今日は、東京でもお馴染みのアトラクションも多いマジックキングダムを予定している。似ているとは言っても、その大きさだけでも軽く東京のそれの倍近くはあるから、由実には元気になってほしかった。
何度問いただしても、痛み止めなども使っておらず、違和感も無いという。
「大丈夫。祐樹君があんなに優しくしてくれたもん。私の回復も早いよ」
一度部屋に戻って、出発の準備をする。今日も暑くなりそうな空だ。
日本と違うのは、こんな場所でおしゃれに着飾ってもしょうがないという感覚だ。
昨日、お揃いで買ったTシャツに俺はジーンズ、由実はデニムのスカート。二人ともスニーカーという普段着。これならアトラクションやスコールで濡れようが、汗をどれだけかこうが心配ない。
二人とも実際の年齢は25歳。だけど、この時の俺たちの気分は15歳に戻っていた。それなら多少飛ばして遊びまわっても許される年齢だ。
駐車場に車を停めると、まだ開園前の早朝にも関わらず、空の色は抜けるような青が広がっている。今日も前日と同じく暑くなりそうだ。
「行くかぁ!」
「うん!」
こう気合いを入れなければ、そのスケールに圧倒されてしまいそうな場所なのだから。
「祐樹君、行こう!」
俺たちの「10年越しの初デート」はこうしてスタートを切った。