あの日の素直を追いかけて
第7話 雰囲気は変わっていなかった
途中、自然渋滞につかまり、一時ヒヤリとしたものの、そこまで大きなダメージもなく空港に到着。駐車場に車を停めて到着ロビーに急いだ。
ほぼ予定どおりの夕方4時過ぎ、到着便の一覧を表示される画面の便名が一つ書き換わった。
ただでさえ夕方で到着便が多い時間帯でもある。
どの便の乗客か見分けがつかないから、俺は少し離れた柱のところで、ぼんやりと次々に出てくる人々を眺めていた。
「波江君!」
いつの間にか、目の前に一人の女性が立っていた。
「佐藤……」
「お久しぶり……だね」
「そうだね。元気だった?」
彼女はもちろんそれなりに年齢を重ねていたし、顔を含めてほっそりと変わっていたけれど、雰囲気自体は当時とあまり変わっていない。一目見ただけで、あの佐藤由実だと雰囲気から感じられた。
「元気かどうかはわかんねぇけどさ。おかげさまって感じかな」
「すっかり大人っぽくなっちゃって。ちょっと探しちゃったよ。でも、雰囲気は変わらないね。安心しちゃった」
「それはお互い様だろ。佐藤だって、なんかすっかり大人になっちゃってさ。ドキッとするじゃんか。分からなかったらどうしようって思っちまってたよ」
やっぱり年月を経ていても、彼女は変わっていない。当時のペースで話を進めていてもブランクを感じさせないくらい。
本当に10年以上離れて暮らしていたのかという疑問すらわいてしまう。
「もぉ、上手なんだから。彼女で訓練したんでしょ?」
「それがさぁ……」
混雑する到着ロビーでいつまで立ち話をしていても仕方ないので、由実の荷物を持って駐車場に向かう。
「途中で食べていくんでいいよね?」
「うん。家には夕食は用意しなくていいって言ってあるから」
スーツケースを後部座席に積み込んで、空港をあとにした。
「……そっかぁ、特定の彼女無しなんだ」
「そんな楽しそうに言うなよ」
彼女の実家がある横浜方面に車を走らせながら、そんな会話が続いた。
「ごめんごめん、一応気にしてる?」
「そりゃぁなぁ。親から浮いた話題一つもないのかっていつも言われてるし。それも嫌になって一人暮らしを始めたんだ」
「そっか。波江君でも気にしちゃうんだ」
「そういう佐藤はどうなんだよ。苗字変わってないってのは分かるけどさ」
独身だというのは事前に分かっていたが、それ以上のことは詮索しないでいた。
「うん……、ボーイフレンドは何回かあったんだけどね」
「そっか」
高速を降りて、彼女の家の近くにあったファミリーレストランに寄った。
「次はちゃんとご馳走するから、今日はここで許してくれ」
「ううん、大丈夫。なんか久しぶりだよね。一緒にご飯食べるの」
「そうだなぁ。あ、それでも二人きりってのは初めてだぜ」
「あ、そっかぁ。緊張しちゃう!」
「ここまで突っ込んだ話していて今さら緊張するもなにもないだろ?」
「それもそうだね」
笑いながら中に入って、窓際のソファー席に通された。