あの日の素直を追いかけて
第9話 自分たちの立ち位置って…?
二日後、待ち合わせの大宮駅に着くと、由実はすでに荷物を持って待っていた。
「ごめん、遅くなった」
「ううん。早く着いちゃっただけだから気にしないでよ」
俺は彼女のキャリーケースも引っ張り、電車に乗った。
「佐藤の家に比べたら田舎だけど許してよ」
「どんなに田舎だって、人より牛の方が多いテネシーの大草原じゃないから大丈夫だよ」
「それもそうか」
他の通勤客に邪魔にならないよう、二人でキャリーケースを押さえつつ約20分。いつもの駅に着いて、電車から降りる。
「ここから歩いて5分て感じかな」
「駅から近くなんだね」
二人で歩いていくうちに口数も少なくなっていく。
「やっぱ緊張する?」
周囲を見回しながら歩いている由実に聞いてみた。
「うん。ちょっとはね。一応初めての場所だし」
「その程度かよ」
「もっとガチガチの方がよかった?」
「一応男の部屋だしさ」
「だって、誘ってくれたの波江君だし。えー? ひょっとして襲われちゃう私?」
「本気にしてないだろ」
「バレた?」
やはり昔と変わらないテンポの会話をしているうちにアパートの前に着いていた。
2階に外階段を上がって、一番手前のドアを開く。
「散らかってるけど許してくれ」
「お邪魔します」
由実の荷物をリビングに置いて、座布団を出してやった。
「結構広いところに住んでるんだね。2LDKって感じ?」
「ここ、古いから安かったんだ。昼間は会社だし、そんなに豪華な住まいは要らないと思って」
そう、築15年は経っているかもしれない。それでも給湯設備などは交換してあったし、条件も悪くなかった。
駐車場も1台分ついて、家賃も都内での1ルームと変わらない。通勤の時間は必要だけど、俺が一人で暮らすには全く問題はない。
「もう、昔から変わらないね。そういう割り切ったところ」
「昔より酷くなったかもしれないぜ?」
夕食用に、簡単にスパゲティを茹でて、フライパンで野菜と一緒に炒めてナポリタンにしてやる。
「アメリカじゃこういうの珍しいもんな」
「ちゃんと分かってるねぇ」
この部屋で、誰かと一緒に食事をしたのはいつぶりだろう。
いつもはテレビをつけながら、ぼんやりと過ぎていく時間。
翌日は祝日の関係で休みなため、話をしているうちに、時計は夜遅くを指していた。
「先に風呂入っちゃえよ」
浴槽にお湯を張って、バスタオルを用意した。
「明日、シャンプーとか買ってくるから、今日はごめん」
「気を使わなくていいのに。ありがとうね」
いつも自分が寝ている部屋に来客用の布団を敷いて、自分の分はリビングにした。
「お待たせー。あれ、同じ部屋でいいのに」
寝間着代わりのスウェットの上下で、由実が笑う。
「だってさー、一応……だぜ?」
そういえ中学生時代だというのに、自分と彼女の間には、他のクラスメイトとは違って男女の壁というのはなかったような気がする。
同郷のせいなのかとも思っていたけれど、今から思い出してみるとそれだけではなかったように思える。