課長に恋してます!

1 一瀬美月、30才誕生日。大失態の夜。【美月】

 結婚して子供を育てて、幸せな家庭を……そういうのに憧れていた。
 予定では25才で寿退社。だけど、今日で私は――30才。

 毎年、忘年会の日が誕生日で今年も上村(かみむら)課長の隣に座ってる。
 
 49才で、奥さんは20年以上前に亡くなってて、男手一つで二人の子供を育てて、再婚の話はあったらしいけど、全部断って今も独身。――全く、どんだけ奥さんの事が好きなの。

 本が好きで、電車の中で見かける課長はいつも何かを熱心に読んでて、笑うとすごく可愛い顔になって、側にいくといつもいい匂いがする。

 時々自分で作ったお弁当を持って来て、何となく見てたら、「どうぞ」って分けてくれて、きんぴらごぼうがうちのお母さんが作ったのより美味しかった。だから、お世辞でもなんでもなく、素直に「美味しい」って言ったら、それ以来おかずを分けてくれるようになった。

 仕事中は厳しい感じの課長だけど、おかずをくれる時は優しい顔してて、そんな課長を見る度に胸がいっぱいで、気づくと同じオフィスにいる課長を目で追うようになっていた。
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