課長に恋してます!
「さすが5階。眺めがいいですね」

 夕食の後、ベランダに出た間宮が言った。

 少し風が冷たかったけど、ビールを持ってベランダに出た。
 間宮の隣に立って、イルミネーションで染まる街を眺めた。

「間宮の家はマンションじゃないの?」
「普通の二階建ての家です」
「実家暮らしなの?」
「その方がいろいろと楽なんで」
「じゃあ、お母さんにご飯作ってもらってるんだ」
「はい。だから料理が上達しないんです。先輩はベテランって感じしますね」
「小学生の頃から台所に立ってたから」
「お母さんのお手伝いですか?」
「まあね。うち、税理士事務所やってて、それでお母さんも事務所で働いてたから、帰りが遅くなる時は作ってたの。妹がまたよく食べるんだな、これが」
「うちはお母さん、専業主婦だったから、完全に甘えた生活してました。でも、彼氏に作ってあげたいなって思うようになって」
「大学生の彼氏だっけ?」
「四月から四年生になります。長野からこっちに出てきてて、だから一人暮らしなんです」
「長野なんだ」

 課長と同じだ。
 課長と長野の郷土料理を出す居酒屋でそばがきを食べた事を思い出した。

 あの夜はお酒の勢いをかりて課長に甘えたりした。
 楽しい時間だったな……。

「好きな人の事、考えてるんですか?」

 目が合うと、間宮がニッと口の端を上げた。

「時々、先輩、遠くに行ってますよ。もしかしてその人が香港に行っちゃったからですか?」

 香港って、上村課長の事だ。
 間宮、気づいていたの?

「石上に聞いたの?」
「見てればわかりますよ」

 間宮がクスッと笑った。
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