課長に恋してます!
「みづき、どっか痛いの?」

 流星が心配そうに大きな目を向ける。

 流星が悪いんじゃない。
 大人の都合でこうなってしまっただけ……。

 不安にさせたらいけない。

「大丈夫だよ。なんでもないの」
 ニッコリと微笑むと流星がほっとしたような顔をした。

「ねえ、おかしのおみせは?」
「うん。お菓子のお店は今から行くよ。でも、ちょっと待ってね。待ち合わせの人がいるの」
「やだ。今行く」
「待ってよ。もう少しだけだから」
「やだ」
「りゅうちゃん。ねえ、言う事聞いて」
 できる限り優しい言葉をかけたつもりだったけど、流星が不機嫌そうに顔をくしゃっとさせた。

「やだ、やだ、やだ、やだーーーー!」

 流星が大声を上げる。
 こんな風に流星が強く拒絶する所を見た事がない。
 ママと離れて不安なのかもしれない。

「ねぇ、りゅうちゃん、落ち着いて」
「やだ、やだ、やだ――! 今すぐお菓子!」

 周囲の人たちの痛い程の視線を感じる。
 何とかしなきゃ。

「わかった。お菓子の所行くから、ねえ、りゅうちゃん」
「今行く! すぐ行く!」

 流星が左手を引っ張った。
 強い力で引っ張られて痛い。

「ちょっと待ってよ」
「今行くのーー!」

「お兄ちゃんは大きな声で叫ばないぞ」

 流星が誰かに話しかけられた。

 流星が驚いた顔をする。
 そして私も。

「……課長」

 紺色のコート姿の課長が屈んで流星と向き合っていた。

「一瀬君、久しぶり」

 屈んだまま課長が顔を上げた。
 目が合うと、課長が目を細めて、優しい顔で笑う。

 胸がキュンとした。
< 112 / 174 >

この作品をシェア

pagetop