課長に恋してます!
 エンジンが切れたように流星が動かなくなった。
 敷地内を全力で走っていたのが嘘みたいに流星は歩こうとすると、しゃがんでしまう。

 仕方ない。おんぶするか。
 
 流星に背中を向けようとした時、先に課長が動いて、流星をおんぶしてくれた。

「課長、私がおんぶしますから」
「いいんだよ」
「でも、悪いですから」
「全然悪くないよ」
「みづきより、おじさんがいい」

 流星に言われた。

「ね。りゅうちゃんもこう言ってるし」
 ニコッと課長が微笑んだ。

 課長って本当、いい人だ。
 きっとヒールを履いている私の負担を心配してくれているんだ。

「さあ、行こう」

 流星をおんぶしたまま課長が最寄りの出入口に向かって歩き出した。
 課長の背中に収まっている流星はご機嫌な様子で課長とまた徳川の将軍の話を始める。

 流星が課長に懐いているのはいいが、完全に流星に課長を盗られた。
 私だって課長と話したいのに。 

「一瀬君、どうしたの?」

 立ち止まったままでいると、課長が振り返ってこっちを見る。

 課長と手をつないで歩きたいな。……とは、さすがに言えない。

「いえ。何でも」
「みづき、おなかすいた」

 課長の背中から流星が偉そうに言う。

「はいはい。今行くから」

 流星への腹立たしい気持ちを堪えて、課長の隣を歩いた。
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