課長に恋してます!
 壁際の席に案内してもらい、流星は当然のように課長の隣に座った。  
 流星が粗相をしないか心配だったので、流星の向かい側に座った。    

 運ばれて来た冷たい水を飲んで、ようやく一息つけた。 
 それにしても足が痛い。
 爪先も土踏まずも、踵も、パツンパツンだ。
 裸足になって、指を思いっきり広げたい。
 
 まさか今日、こんなに歩かされるとは思わなかった。  
 課長とお洒落なカフェにでも入って、香港での事とかを話すつもりだったのに。  
 すっかり計画が狂った。

「一瀬君、大丈夫?」  

 課長が眉を寄せて心配そうな視線を向けてくる。

「沢山歩いて疲れたよね。ごめんね、皇居に行こうなんて言ってしまって」
「いえ、いいんですよ。皇居楽しかったです」  

 足は痛くなったけど、課長と一緒にいられた事は嬉しい。
 流星さえいなかったら、もっと楽しめたんだろうな。   
 なんて、口が割けても言えない。

「一瀬君、髪切ったんだね」  

 課長が水の入ったグラスを置いて、こっちを見る。

「印象が少し変わっていたから、東京駅で声を掛けそびれたんだ」  

 真っすぐな視線と合った瞬間、頬が熱くなる。 
 課長に見つめられて恥ずかしい。

「ちょっと短くし過ぎたかな、なんて思ってるんですけど。石上にはサルって言われたし」

 毛先に触れながら茶化して笑うと、「かわいいよ」なんて言葉が飛び込んできて、お腹の奥をキュンとさせる。
 課長にかわいいと言ってもらえるとは思わなかった。

 嬉しいけど、照れくさくて課長の方を見られない。

「そ、そうですか」
「うん。凄くかわいい」
「おじさん、遊ぼう」  

 流星がまた割り込んでくる。
 せっかくいい雰囲気だったのに。  
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