課長に恋してます!
「上村課長は奥様の事が物凄く好きだったんですね」
「ああ。惚れぬいて一緒になってる。そこまで惚れた最愛の奥さんに結婚してすぐに先立たれて、残された子どもたちの為に自分から長野行きを申し出て、上村は長野の営業所に行った」
「お子さんたちを大事にしているんですね」
「そうだ。あいつは家族を大事にしてる。だから上村を困らせないで欲しい。君の事で悩んでるようだったよ」

 ドクンっと鼓動が鳴った。

 課長、私の事で悩んでいるの?

「実は、上村の妊娠中の娘さんが流産しかけてね」

 えっ!

「赤ちゃんは大丈夫だったんですか?」
「とりあえず何とかなったそうだが、入院中だ」
「良かった」
「でもまだ安心できるレベルじゃないらしい」  

 課長、大丈夫かな?
 離れて暮らしているからより一層、娘さんの事が心配で堪らないよね。

 私にできる事ないかな。

「それで、君の事で娘さんに問い詰められたらしい」
「私の事で?」  

 胸が締め付けられた。

 それって私とホワイトデーに会っていた事を問い詰められたの? 

 娘さんの立場で考えれば、私は迷惑な存在なのかな……。
 お母さんが亡くなっているとは言え、いつまでもお父さんにはお母さん一人を想っていてもらいたいものかもしれない。

「俺が聞いてるのはそこまでだ」

 専務は息をつくようにコーヒーを口にした。

「一瀬君、言いたい事はわかってくれるよね?」

 念を押されるように言われた。
 専務の言いたい事がわからず首を傾けると、「個人的に上村に会うのは止めなさい」と言われた。

 言われた瞬間、鋭利な刃物で体の真ん中を刺されたような気がした。

「呼び止めてすまなかった。話は以上だ」

 香川専務が立ち去る。

 一人になった途端、目の前のコーヒーカップが歪んだ。
 熱い感情の塊が目の奥まで込み上げてくる。

 もう上村課長に会ってはいけないなんて酷い。

 どうして香川専務に言われなきゃいけいなの?
 そんなに私の存在って課長に迷惑だったの?
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