課長に恋してます!
「東京で用事があるって言ってたでしょ?」
 葵に真っすぐ見つめられ後ろめたくなる。
 まるでゆり子に言われたみたいだ。

「お父さん、どうしたの?」
「いや」
「答えられない事でもしてたの?」
「何言ってんるんだ。そんな訳ないだろ。会社の人と会ってたんだ」
「そう」
 葵の顔から急に笑みが消えた。

「葵、どうしたんだ?」
「会社の人って女の人?」
「え?」
「最近のお父さん、感じが変わった気がして。好きな女の人がいるの?」

 ドキッとした。
 葵がそんな風に感じていたなんて知らなかった。

「そんな訳ないだろ」

 胸がちくりと痛む。
 一瀬君は葵に嘘をつかなければいけない相手なんだと実感する。

「本当に?」
 今にも泣き出しそうな、不安そうな表情を葵が浮かべる。

「葵、どうしたんだ?」
「嫌なの。お父さんにはやっぱりお母さんだけを想っていて欲しいの」

 胸が締め付けられる。
 
 一瞬、葵とゆり子が重なった。
 ゆり子に私を忘れないでと言われたみたいだ。

「ごめん。今のは冗談」 

 葵が笑った。
 それから葵は「少し寝るね」と言って眠った。

 葵の寝顔を見ながら、ゆり子の事を考えた。
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