課長に恋してます!
 月曜日の午前中。
 香川専務から電話をもらった。

「上村、娘さんの容体は大丈夫か?」
 開口一番に聞かれた。
 あと1日、2日は予断を許さない状態でいるが、母体も赤ちゃんも今は落ち着いている事を説明した。

「そうか。まずまずだな」

 安心したようなため息を香川がついた。

「心配かけて申し訳ない」
「何水臭い事言ってんだ。同期の仲だろう」

 香川が笑った。

「香港に電話したら、娘さんが大変な事になってるって聞いて心配したよ」
「葵には悪い事をしたよ」
「別にお前のせいじゃないだろう」
「いや、葵が大変な時、父親として後ろめたい状況にいたんだ」

 堰を切ったように一瀬君の事を香川に話した。
 葵に何をしていたのか聞かれて、答えられなかった事も。

 同じ年で、家庭のある香川なら置かれてる立場をわかってくれる。
 香川のアドバイスが欲しかった。

「その子の事、好きなのか?」

 一瀬君の笑顔が浮かんだ。

「うん」
「そうか」

 沈黙が流れた。

「今は特に娘さんには言わない方がいいだろうな。体調も気持ちも不安定だろうし。それに父親が自分とあまり年の変わらない女性とデートしていたなんて、気持ち悪いと思うかもな」

 気持ち悪い……。

 胸に深くその言葉が突き刺さる。

 葵の立場で考えれば確かに香川の言う通りかもしれない。

「わかってるよ。葵には絶対に言わない」
「上村、今は娘さん第一に行動しろよ」
「わかってる。話を聞いてくれてありがとう」
「同期だからな」

 そう言って香川は電話を切った。
 香川の言葉が身に染みた。
 
 もう一瀬君に会ってはいけない。
 葵の為にも。
 ゆり子の為にも。
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