課長に恋してます!
「お茶、きたよ。熱いうちに飲みなさい」
 一瀬君の前にお茶を置いた。

「熱いの苦手。課長、フーフーして」
「自分でフーフーしなさい」  
 
 娘に言い聞かせるように口にした。  

 一瀬君がおもむろにカウンターから起き上がる。眩しそうに目をしかめて、湯気が立ち上る白い湯呑を見ていた。そして、言われた通りに、渋々フーフーし出した。素直さに感心しながらも、笑った。

「なんで笑うの?」
「素直だと思って」
「お父さんの言うことはちゃんと聞くんです。だから、可愛がって下さい」  

 頭を差し出され、仕方なく、よしよしと撫でた。
 甘えてくる一瀬君がかわいい。かわいいから困る。

「課長、今夜は優しいんですね」
「お父さんだから」
「お父さんか。そうなのかな。課長といると安心する」  

 一瀬君がまた、甘えるように肩に頭を乗せて来た。少し重いが、そのままにしてた。

「ねえ、マスター、私たち、どんな関係に見えますか?」  

 一瀬君が突然、カウンター越しのマスターに話を振った。  
 小鉢を盛りつけていたマスターは、少しだけ手を止めて、こっちを見た。

「親子?夫婦?」  

 答えを急かすように一瀬君が口にした。

「不倫中の上司と部下、ですかね」  

 マスターの答えに心臓を強く叩かれたような衝撃が走る。  
 マスターにそんな風に見られている事が妙に照れくさくて、頬が熱くなってくる。
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