課長に恋してます!
「私の事も娘さんに聞かれたって聞きました。あの、私、困らせていますか?」

 一番気になっていた事を口にした。
 課長は静かに首を振った。

「娘に、東京での用事を聞かれて、少し後ろめたくなったぐらいだよ。娘が大変な時、そばにいてやれなかったからね」

 課長は息をつくようにコーヒーを飲んだ。

「全然、困ってないから大丈夫だよ」
「課長は娘さんに私と会ってた事は話したんですか?」
「話したよ。会社の人に会ってたってそのまま」

 ――会社の人。

 課長との間柄が遠いものに感じられた。

 そうか。会社の人か。
 課長はそれぐらいにしか思ってないのか。
 何を期待してたんだろう。

「心配はいらないよ。香川専務に何か言われたんだね?」
「私の事で課長が悩んでるって聞きました」

 課長が、ああと頷いた。

「専務は大げさに言っただけだ。全然悩んでないから心配しないで。そもそも悩むような間柄でもないし。一瀬君はもう僕の部下じゃないからね」

 課長の言葉が痛い。

 私たち、悩むような間柄じゃないんだ。
 少しは私の事で悩んで欲しい。

「そうですか」

 震えそうになる手に力を入れて、コーヒーを飲んだ。
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