課長に恋してます!
「お前、ボロボロじゃないか。そんな弱った一瀬見たくないんだよ」

 石上の低い声がすぐ横で聞こえた。
 課長より逞しい腕がガッチリ背中まで回ってた。

「もう俺にしとけよ」

 顔を上げると石上の熱い瞳があった。

 ドキッとする。

「石上……」
「なあ、一瀬、俺にしろよ」

 石上の顔が近づいてくる。唇が触れそうな程、近くなって、思わず石上を突き飛ばした。

「痛ってな」

 後ろに倒れた石上が起き上がる。

「女とは思えないバカ力だな」
「だって石上が……」

 キスしそうな距離まで近づくから。

 恥ずかしくてその後の言葉は言えない。

「からかうのはやめて」
「からかってなんかいねぇーよ」

 石上が立ち上がってこっちに来る。
 私も立ち上がって台所に逃げた。

「そんな警戒すんな。何もしないから」 
「警戒するような事をするからいけないんでしょ」
「お前こそ、気軽に男を部屋にあげるな」
「気軽にあげてないもん。石上だからあげたんだよ」

 なぜか石上が嬉しそうに口の端を吊りあげる。

「それが聞けただけでもいいや。帰るよ。じゃあな」

 本当に石上は帰った。
 ドアが閉まる音がして、ほっとした。

 まさか石上に抱きしめられるとは……。

 テーブルの上のケーキの箱を眺めながら、石上と、課長の事を考えた。
 石上がびっくりする事ばかりするから、胸の痛みは少しだけ軽くなっていた。
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