課長に恋してます!
 水曜日は会社に行った。
 
 石上は明日からの上海出張の準備で朝から忙しそう。
 席にもほとんどいなかった。
 石上と特に話す事もなくあっという間に一日が終わる。

 明日と明後日が出張だから、次に石上と顔を合わせるのは月曜日になる。
 何となくだけど、モヤモヤとする。どういうつもりで私を抱きしめたり、キスしようとしたのか知りたい。
 
 でも、聞く勇気もない。

 悶々としたままエレベーターで一階に降りた。

「おっ、一瀬」

 エレベーターの扉が開くと、ネイビーのコート姿の石上がいた。
 取引先から帰って来たんだ。

「石上、お疲れ様」

 エレベーターから降りて、出入口に向かって歩くと、石上が追いかけて来た。

「話がある。ここで待ってろよ」
「え」
「逃げるなよ」

 石上は釘を刺すように言うとエレベーターに乗った。

 仕方なく、エントランスホールで石上を待つ事にした。
 ビルから出て行く人たちをぼんやり眺めながら、なんで石上を待ってるんだろうと不思議な気持ちになってくる。

 やっぱり帰っちゃおうか。
 でも、待ってろって言われし。
 でも、帰ろうか。
 でも――。

 気持ちが行ったり来たりしながら石上を待った。
 15分後、急ぎ足で石上は戻って来た。

「待たせたな」
「うん」
「夕飯おごってやるから来い」

 いきなりご飯と言われて戸惑う。

「行くぞ」

 迷っていると、石上がビルの前でタクシーを止めた。

「一瀬、早くしろ」

 石上の勢いに押されて、タクシーに乗った。

 また課長はやめておけと、お説教でもされるんだろうか。
 はあ。憂鬱だな。
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