課長に恋してます!
「いや、石上が石上らしくなくてちょっとびっくりして」
「何だそれ」

 石上が低い声でクスクス笑う。
 笑った顔は優しい。

 吊り上がった切れ長の目をしているので普段の石上の顔は少し怖い。
 しかし、顔立ちは整っているのでイケメンだと、間宮が言っていた。

 まあ、私の好みではないけど。

「風邪はもう大丈夫か?」

 また石上らしくない気づかいの言葉にびっくりする。
 30にもなって体調管理もできないのかよと怒られるかと思った。

「お前、その顔なんだよ」

 石上がさらに明るい声を立てて笑った。

「鳩が豆鉄砲を食ったような顔しやがって」
「だって、石上が石上らしくない事ばがり言うんだもん」
「石上、もしかして末期ガンとかなの?」
「はあ?」

 石上が凛々しい眉を上げる。

「美味しいご飯ご馳走してくれるし、優しいし、いじめッ子が改心するのって、余命が短いって知る時ぐらいじゃない」
「いじめっ子って誰の事だよ?」
「……石上の事」
「お前、俺の事そんな風に思ってたの?」
「毎日、暴言吐きまくってるじゃない」

 石上がため息をついた。

「それはお前が仕事ができないからだろうが」
「……すみません」
「一瀬はお尻叩かないとちゃんとやらないからな」
「そんな事ないわよ」
「特に課長が香港に行ってからが酷い。全く仕事にやる気が見られない」

 石上が上司の顔をして説教を始める。
 話を聞きながら、石上にかなり迷惑をかけていた事に気づいた。

「すみません。返す言葉もございません」
「好きな男がいなくなったぐらいでグラグラされたら困るんだよ。だから寿退社しろよ」

 ――寿退社!

 いきなり結論がそこに行ってびっくりした。
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