課長に恋してます!
 石上とは同じ大学出身で同期だけど、総合職で、主任の肩書を持つ石上は、事務職の私を、どこか見下していた。

「見積りの数字が全く違うじゃないか。お客さんの前で、俺、恥かいたぞ」

 石上が乱暴に書類の束を私の机に投げた。

「すみません。すぐに確認します」
「今日中に直せよ」
「はい。必ず」
「経理にいたくせに、見積り一つちゃんと作れないのかよ」

 入社したばかりの時は経理にいた。しかし、合わなかったから今の課に異動になったのだ。数字に強いという訳ではない。

「何だ?」

 言い返そうと思ったけど、課長のことばかり考えていたから、こっちにも落ち度はあった。

「いえ、何でも。すぐに直します。本当にすみません」
「珍しく素直だな」

 石上がボソッと余計な一言を言った。

「しっかり頼むぞ」

 石上はそう言って、凛々しい右眉をあげる。

「そういえばさ、上村課長、もうこっちには戻って来ないらしい」

 えっ……。
 課長戻って来ないの?

 どういう事?
 目が合うと石上が「気になるか?」なんて意地の悪い笑みを浮かべて、オフィスから出て行った。

 もうっ! 最後まで話していきなさいよ!

 一体どういう事なの?
 海外事業部所属になるの?
 それとも本社を離れて長野に帰るの?

 気になって仕事に集中できない。
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