課長に恋してます!

5 酷い日 【美月】

 上村課長と最寄り駅が同じ所に住んでいるのは本当に偶然だった。

 この街に越して来たのは、大学生の頃まで住んでいた1ルームのアパートが手狭になり、会社がある大手町まで乗り換えなく地下鉄で20分で行けるからだった。

 大型ショッピングセンターと、大きな公園があって、独身者よりもファミリー向けの、のどかな街で、住み心地はいい。

 課長と最寄り駅が同じだと知ったのは、課長が私の上司になって2日目だった。
 友人からの結婚報告がショックで駅のホームのベンチで座っていたら「一瀬君」と声をかけてもらった。
 互いに同じ駅だと知った瞬間だった。
 それから、「夕飯食べた?」と聞かれて、近くのファミレスに課長と入った。

 課長から長野の話を聞いた。森がたくさんあって、山に囲まれてて、空が広くて、海はないけど、いい所だと話してくれた。
 長野の話をする課長はとても楽しそうだった。この人、こんなに優しい顔するんだって思った。

 仕事中は、怖そうな感じに見えて、何となく苦手だなって最初は思っていた。

 だけど、課長は少しも厳しくなんかない。話してみると、感じがよくて、こちらの話を真剣に聞いてくれる。
 ファミレスで、仕事以外の話をしてそう思った。
 
 課長は私に、責任ある仕事を任せてくれた。
 失敗をした時、叱られると思ったら、世界地図を描いてくれた。
 課長は何も見ずに、ユーラシア大陸、アフリカ大陸、アメリカ大陸、オーストラリア大陸、南極大陸を描いた。
 地理の先生ができるんじゃないかって思えるぐらい、綺麗な世界地図だった。
 そして、最後に日本を描いて言った。

「世界はこんなに広いんだよ。煮詰まった時は大きな視点で物事を見なさい。違う景色が見えてくるから」

 失敗に気を取られて、視野が狭くなっていた心に響いた言葉だった。
 ますます課長を尊敬するようになった。悩んでいると課長はいつも的確なアドバイスをくれた。信頼できる上司だった。

「僕は君に相応しくない。49才でおじさんだ。19才も年上なんだ。だから、君の気持ちに応えられない」

 課長にそう言われた時、泣きそうになったけど、我慢した。
 楽しかった気持ちがぐちゃって潰れて、それから、逃げ出した。
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