課長に恋してます！
　一瀬君が僕を見て、ニコリと微笑む。

「今日はあまり酔っていないから大丈夫です」 　

　まさか断られるとは思わなかった。
　そうだよな。告白を断った身で一緒に帰りたいとは図々しかったよな。

「先輩　！何言ってるんですか！　主役からお声がかかったんですよ！　 しっかり課長の事、送ってあげて下さい」 　

　間宮くんが一瀬君を手を掴んで僕の隣に立たせる。

「じゃ、先輩。あとはよろしくお願いします。課長、お疲れ様でした」

　そう言って間宮君が立ち去る。
　二人きりになると、一瀬君が頬を強張らせたような表情を浮かべる。
　僕といる事に気まずいと思っている事が伝わってくる。

　やっぱり昨日の事、気にしているよな。声をかけたのは無神経だった。
　一瀬君の気持ちをもっと汲み取るべきだった。

「ごめん。間宮くんと帰る所だったんだよね」
「いえ」
「やっぱり、寄り道して帰るから。一瀬君、間宮くんと帰りなさい」

　大きな目の中の黒い瞳が左右に動き、何かを決めるようにこっちを見た。

「間宮に叱られますから。今夜は私が課長を送ります。あの、電車でいいですか？」
　一瀬君が怒ったように言い、その勢いに押されるように「うん」と頷いた。

「では、行きましょうか」

　一瀬君が歩き出し、紺色のコートの背中を追うように続いた。
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