課長に恋してます!
 特に話す事もなく、一瀬君とネオンに溢れた夜の繁華街を歩く。

 通り過ぎる人たちの笑い声や、客引きの呼び込みの声を一瀬君の隣で聞きながら、胸が締め付けられるような気持ちになる。
 こうして一瀬君と帰るのは今夜が最後なんだと思ったら、喉の奥も締め付けられて言葉も出て来ない。

 こんな時は上司として当たり障りのない、気楽な話をするべきなのに。
 僕はどうしてしまったんだろう。

「課長?」

 地下鉄の駅に着くと、先ほどよりも柔らかな声で呼ばれ、頬が緩む。

「うん?」
「電車、次ので行きますか?」

 一瀬君が電光掲示板を見上げる。10時台の電車の時刻が10分刻みで表示されていた。
 一番時間の近い電車は急げば乗れそうだ。でも、急ぎたくない。隣に一瀬君がいるから。

「次にしよう」
「はい」と笑みを浮かべて頷いた、一瀬君の横顔にほっとする。

 良かった。怒っていると思っていたが、笑ってくれた。
 もう、これだけで十分幸せだ。
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