課長に恋してます!
 一日いなかった部屋は冷え切っていて、すぐにエアコンとホットカーペットの電源を入れて、ソファとテーブル周りのペットボトルと雑誌をバタバタと片付けて、何とか部屋を整える。

「えーと、ソファにどうぞ」

 コート姿のまま廊下に立つ課長を6帖のリビングに通す。
 エアコンが効いて来たのか、頬が熱くなってくる。背中も何だか汗ばんでくる。

「ありがとう」

 課長は二人掛けのソファに腰かけ、部屋の様子を見ていた。
 長居するつもりはないのか、コートを着たままだ。

「今、お茶いれます」

 コートを脱いで、セーター姿で3帖のキッチンスペースに立つ。

「おかまいなく」

 背中に課長の声がかかる。

「いえ」

 ホーローの赤いやかんに水を注ぎ、ガスコンロを点けて湯を沸かす。
 いつもの手慣れた作業なのに、すぐ近くに課長がいると思うと、緊張で手が震える。
 さっきからドキドキが止まらない。

「ちらがってて、すみません。いつもはもう少し片付いてるんですけど」

 リビングにはソファ、テーブルの他に本棚、ハンガーラック、テレビボードにテレビが並んでいて、手狭な感じがする。広いとは言えない部屋に私の生活が詰まっていて、それを課長に見られていると思ったらちょっと恥ずかしい。

 でも、課長が来てくれた嬉しさの方が勝ってしまう。
 
「こちらこそ、突然すみません」

 落ち着いた優しい声で言われて、さらにドキドキする。
 今までこの部屋に男の人が来た事はなく、初めて部屋に上げた男の人が課長だと思ったら、顔がにやけてくる。
 課長に背中を向けていて良かった。こんな締まりのない表情はさすがに恥ずかしくて見せられない。

 湯が沸いて、結婚式の引き出物で頂いたウェッジウッドの上品な白いカップに一番高価なドリップ式のコーヒーを淹れた。

「どうぞ」

 芳ばしい香りが漂うカップをテーブルの上に置くと、「いい香りだね」と課長が言ってくれた。
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