課長に恋してます!
「娘の部屋に来たみたいだ」

 課長がテーブルの脇に座る私に視線を向けながら言った。

「いや、娘が一人暮らしを始めた時の事を思い出してね」

 娘さんの話をするのは、私の事を恋愛対象としては見ていないんだよという意味に取れて、少しだけもやっとする。
 もう少し色気のある事を言われたかった。下着でも干しておけば良かったかな。

「娘の所よりも片付いてるよ」
「ありがとうございます」

 ソファに座っている課長より一段低い場所から課長を見上げる。
 課長はにこやかな表情を浮かべているけど、どこか私を遠ざけているような感じもする。

 警戒しているのかな?

「娘さんは今も一人暮らしなんですか?」
「いや、結婚してる。実は秋頃、孫が生まれるんだ」
「えー! 課長、おじいちゃんになるんですか!」

 びっくり。

「そう。50才でおじいちゃん」

 苦笑いを浮かべた課長が、カップを持ってコーヒーに口をつける。

「美味しいね。一瀬君はいいお嫁さんになるよ」

 気持ちが沈んだ。
 課長以外の他の誰かと結婚しなさいと言われている気がする。

「……どうしても、ダメですか?」
「え」
「私じゃ、どうしてもダメですか?」

 課長を真っすぐに見た。
 黒い瞳が左右に揺れる。
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