課長に恋してます!
「バカ、何言ってんだよ。なんで俺が一瀬を好きなんだよ!」

 カウンターをバンと叩いて、石上が間宮に反論する。
 その反論は当然だ。石上が私に好意を抱いている訳ない。

 でも、なんか珍しく石上が間宮にムキになっているような……。

「もうバレバレですよ」

 間宮がからかうように言う。

「だから違うって。お前、うるさいからもう帰れ」
「帰りますよ。トモ君に呼ばれたんで」

 間宮が「じゃあ、お先です」と言って店を出て行った。

「間宮が言った事、気にすんなよ。本当に違うからな」

 頭をポリポリとかきながら、石上が心配そうにこっちを見る。

「うん。わかってる」

 涙を拭いて、ニコッと笑う。

 石上がほっとしたような表情を浮かべて、これうまいぞと、たれのよく滲みたつくねを私の取り皿に置いてくれた。
 言い方がキツイけど、石上は基本的には気遣いができるいい奴だ。

 今夜は石上に誘ってもらって良かったかも。
 課長の事を打ち明けたら、なんかスッキリした。

「知り合って十年になるが、一瀬の男の趣味は知らなかったな」

 石上が日本酒を飲みながらしみじみとした調子で言った。

「年上過ぎるって言いたいんでしょ?」
「いや、いい趣味だと思って。上村さん、カッコイイもんな。俺、あの人好きだよ」

 課長のカッコよさをわかってもらえて嬉しい。

「もしかして、お前が結婚をやめたのって、上村さんを好きだったからか?」
「まあね。やんなっちゃう。あの時からずっと片思い」
「片思いか。切ない響きだな」
「三年ずっと好きだった。今も変わらない」
「気持ちは伝えたのか?」
「うん。この間やっと。そしたら香港に異動しちゃうんだもん。いきなり過ぎるよ」
「だから課長は一瀬の事心配してたのか」
「課長、心配してた?」
「一瀬が痩せたって言ったらご飯でも連れて行ってあげて下さいって、心配そうな声で言っていたよ。電話、代われば良かったな。課長も本当は一瀬と話したかったのかもしれない」

 課長、私の事、心配してくれたのか……。
 はぁ、嬉しくてまた泣きそう。
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